朝起きられない子どもたち

はじめに

4育のバランスは子育てにとってとても大切です。

眠育  2) 歩育  3) 食育  4) 教育

昔に比べて、子供の睡眠時間は怖いほど短くなりました。子供の一日の歩数は半減し、さらに減少しています。食育は飽食の中に失われています。少し極端ですが、ナチュラル・ハイジーンの考え方も参考になります。

参考:松田麻美子訳 「フィット・フォー・ライフ(グスコー出版)」 

教育は学校で十分なはずです。塾は子供の自由時間を大きく減少させています。自由時間の減った子供に追い打ちをかけているのはスマホとゲームです。少子化と近すぎる親子の距離、子供にとって生きづらい時代となりました。笑顔は半減し子供らしい子供は減り続けています。

子供は生まれて10年間、ただひたすら脳の熟成に全力を費やします。11歳から性ホルモンの爆発的な増加が起きます。そして体の発育、性器の発育が追随し、思春期が始まります。この性ホルモン爆発の時期に自律神経の発育が出遅れると、循環器系、内臓系、一部内分泌系に支障が生じます。そのなかでも循環器系の発育が遅れた状態が起立性調節障害と考えられます。

※男子の割礼は、ほとんど自然割礼です。包皮が固く包茎の場合は、泌尿器科で処置することもあります。

 

小児の心身症やストレス関連病態と好発年齢について、日本小児心身医学会は上図のような症状を挙げています。朝起きられない子どもたちの症状の根幹にあるのは自律神経系の発達障害と考えられます。私の提唱する自律神経発達障害説です。

朝起きられない子供たちにとって、医療介入は限られますが、多くの親は薬や医療に期待を持ちます。確かに、片頭痛、片頭痛関連症状、光音臭いなどの過敏症、睡眠時随伴症、脳脊髄液漏出症などには医療介入は効果的です。問題は効果的な医学的治療法のない起立性調節障害、概日リズム睡眠障害、特発性低髄液圧症などです。これらは家族関係、家庭環境、生活習慣、学校との連携の中に解決の道を模索するしかありません。この小冊子をご一読いただき、子育てのヒントを見つけていただければ幸いです。

令和3年3月吉日 大田浩右

 

朝起きられない要因

昭和の時代、不登校という言葉が流行りました。そして朝起きられない子供たちの様々な要因が科学的に分析されるようになりました。単なる怠けから学校環境やいじめなど心理社会的要因も増えてきました。平成の時代に入り、子供たちはスマホを持つことが一般化し、子供の睡眠時間は世界最悪の下位一位二位までに短縮しました。そして遅寝が常態化し、深夜までスマホで遊ぶ子供が増え、朝起きられない要因の一つとしてスマホ病が登場します。

遅寝症候群 Osone syndrome

怖いほど減った日本人の睡眠時間

危機感を持った国は、子供の睡眠習慣について調査しました

文部科学省は予想以上に悪い結果に驚きました。  文部科学省平成26年11月の要約

<就寝時刻>

小学生の50.8%は、午後10時以降に就寝

中学生は、22.0%が0時以降に就寝

高校生は、47.0%が0時以降に就寝

<睡眠時間の自己評価>

<朝食摂取率>

毎日食べる割合小学生89.3% 中学生86.3% 高校生81.9%

<携帯電話・スマートフォン(スマホ)との接触時間と就寝時刻>

図はスマホ使用と就寝時刻の関係を表しています。見れば見るほど恐ろしく遅寝の%数字が並んでいます。10時前に就寝する子供は紫色で表示されています。ほとんどの子供は10時前に寝ていない厳しい現実です。

<中学1~3年生 睡眠時間の国別比較>

世界の中学生で一番寝ていないのは日本です

<日米中の高校生の就寝時刻の比較>

日本の親は国際比較を見て驚きます。

<総合評価>

子供たちは自分が遅く寝ているという自覚に乏しい。年齢による正しい就寝時刻を知らない。外国の子供の就寝時刻を知らない。子供の知識不足は睡眠に対する学校教育、家庭教育の不足が原因と考えられます。

 

<参考資料1>

米国立睡眠財団(NSF)が国際的専門家と協力し、ほとんどの年齢層の適切な睡眠時間に関する新しい勧告を発行しました。

新勧告の概要は以下の通り

 新生児(0-3ヶ月):14-17時間

 幼児(4-11ヶ月):12-15時間

 幼児(1-2才):11-14時間

 幼児(3-5才):10-13時間

 学齢期の子ども(6-13才):9-11時間

 未婚者(14-17才):8-10時間

 若年成人(18-25才):7-9時間

 大人(26-64才):7-9時間

 高齢者(65才以上):7-8時間

NSFの最高経営責任者(CEO)であるデビッド・クラウド氏は、「NSFが発表した推奨睡眠時間は、個人が健康的な範囲内の睡眠スケジュールを立てるために役立つだろう。また、個人が医療提供者と睡眠に関する話し合いをするためにも良い出発点となるだろう」と述べています。

出典は『睡眠保健』(論文要旨)

 

<参考資料2>

遅寝症候群は病名ではありません。

遅寝は子供の健全な成長を阻害します。また、遅寝は後述する概日リズム睡眠覚醒障害のなかで頻度の高い睡眠相後退症候群に移行する危険性があります。親子して早寝習慣を心がけてください。

スマホ病・ゲーム病

睡眠層の後退(遅寝)

厚労省がスマホ病を正式に病名として認定しました。ゲーム依存症はスマホ病と同質です。

就寝前のスマホは  子供の脳にとって猛毒です。

就寝前に限らず、毎日長時間スマホやゲームをしていると、学業成績が下がるだけでなく脳に取り返しのつかない傷害が起きると言われています。

なぜ空は青いの!!  なぜ海は青いの!!

ブルー以外の色はエネルギーが弱いため上空で消えます。
赤色・オレンジ色・黄色などはエネルギーの小さい長波のため上空で消滅します。短波のブルーはエネルギーが強く大気を通り海の中まで届きます。このため、空は青く海も青く見えるのです。

短波のブルーライトエネルギーが強く、散乱することなく脳に到達し ⇒脳を興奮させせます。
就寝前のスマホ ⇒熟眠感の不足 ⇒朝なかなか起きられない

就寝前のスマホ(ブルーライト)は脳の猛毒

↓ 全国の医療機関、学校に配布された資料(公益社団法人日本医師会、公益社団法人日本小児科医会資料一部改変)

スマホが子どもの脳に与える影響

スマホ1時間以上の使用は成績を下げる

スマホの悪影響はブルーライトだけではありません。東北大学の川島隆太教授による仙台市の小学5年生~中学3年生の約3万7千人を対象に行った調査から、スマホと成績について次のことがわかりました。

・スマホを1日1時間以上、使い続けた子どもはどんどん成績が下がった。

・もともと成績が良かった子も、スマホを使い始めると成績が大きく下がった。

・スマホをもともと1時間以上使用していて成績が悪かった子がスマホ使用をやめる、もしくは1時間未満に抑えたら成績が向上した。

LINE は使ったら使った分だけ成績が下がる

スマホを時間制限しても意味をなさない例外がLINEの使用です。どれだけ勉強しているか、どれだけ寝ているかに関係なく「LINEを使うと直接的に成績を下げる」ことがわかりました。

理由を調べるため、脳の血流変化を調べました。その結果、辞書を使って言葉の意味を調べる場合は思考する時に活発になる大脳の「前頭前野」の血流が増えるのに対し、スマホでウィキペディアを使って言葉の意味を調べる時には、逆に前頭前野の血流は減少し、抑制がかかって働かない状態であることがわかりました。つまり、脳をしっかり使って鍛える時期にある子どもたちの脳は、休息時間が長いと発達、働きが低下してしまいます。また、LINEの影響には心理的な原因もあることがわかりました。LINEのメッセージ音は「誰かからメッセージがきた」という認識につながっており、その通知音がなるたびに情報処理や動作速度が遅くなり注意力が低下したのです。目覚まし時計のアラームでは起こらない反応でした。

 

スマホが破壊しているのは学力ではなく「脳」そのもの

スマホ使用の継続的な影響を調べるため、同じく仙台市在住の5歳から18歳の児童・生徒224名の3年間の脳発達の様子を観察しました。実験方法の概略は、一度目のMRI検査時に、その時のインターネット習慣をアンケート調査で調べました。そして3年後にもう一度MRI検査を行い、3年間の脳発達に伴う大脳灰白質体積の増加を計算しました。インターネット習慣に関しては、「使わせない」「まったくしない」「ごくたまに」「週に1日」「週に2~3日」「週に4~5日」「ほとんど毎日」の7群に分けました。そして1回目に調査したインターネット習慣が3年間の脳発達に与える影響を統計的に検証しました。統計処理にあたっては、家族の数、家庭の年収、両親の教育歴、居住地、睡眠時間、頭蓋容積の影響が結果に反映されないようにしています。

すると1回目の検査時には、大脳灰白質体積に群間差はなかったのですが、3年後にはインターネット習慣に応じた発達の差が認められたのです。インターネット習慣がない、あるいは少ない子どもたちは、3年間で全脳の灰白質体積が増加しているのに対して、ほぼ毎日インターネットを使用する子どもたちは、全脳の灰白質の発達が3年間でほぼ止まっていることがわかりました。

以下の脳の模型では、赤色の部分は大脳灰白質の発達が特に悪くなっている領域です。前頭葉、側頭葉、小脳など多くの領域に悪影響が出ていることがわかります。

大脳灰白質の体積だけでなく、神経細胞のネットワークの部分、すなわち神経線維層である大脳白質の3年間の発達に関してもMRI画像で調べました。黄色の部分は、3年間の脳の成長を追跡した結果、インターネット習慣が多いほど大脳白質の発達が遅くなっていると判断された領域です。インターネット使用の頻度が高いと、大脳灰白質や小脳内を結ぶほとんどの神経線維の発達に悪影響が出ていることがわかりました。

スマホの使用をやめさせるために

スマホに子守りをさせない/親が規範を見せる

「スマホを取り上げたら自殺する」と親を脅すほど、スマホ依存の強い子どももいます。そうなる前にスマホに子守りをさせないことが大切です。親が四六時中スマホばかりを見ていて子どもにするなというのは無理な話です。親自身がスマホやゲーム、LINEの使用から離れた生活をすることが第一歩です。子どもと話す、一緒に遊ぶ、一緒に家事をする…そういうスマホのなかった時代の普通のことが大切です。

 

依存症は体質/遺伝的な部分がある

両親を含め祖父母、おじおばなど大きな家族の中にアルコールやギャンブルなどの依存症のある家系では、ゲーム依存やスマホ依存になりやすいので、より早くからの対策が必要です。スマホを取り上げると暴力を振るう、暴れるなど依存症傾向が見られる場合には、専門的な治療が必要なこともあります。家族で解決が難しく生活に支障が出る場合は、ゲーム依存専門の医療機関に相談しましょう。

【参考資料】

スマホが子どもに与える影響/データ編 東北大加齢医学研究所長・川島隆太教授に聞く

四国新聞 2019/6/5 https://news.line.me/issue/oa-shikokunews/06115c243fee

「224人の子の脳」3年追って見えたスマホの脅威 成績が低下してしまう真の要因はどこにあるか

川島 隆太 : 東北大学加齢医学研究所所長. 東洋経済オンライン.  2021/01/20

https://toyokeizai.net/articles/-/403770

脳科学者・川島隆太教授が警告「子どものスマホ使用で2時間以上の勉強効果が消える!」

週刊女性プライム 2017/7/30 https://www.jprime.jp/articles/-/10199

高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査報告書

平成26年7月 総務省情報通信政策研究所 https://www.soumu.go.jp/main_content/000302914.pdf

 

家族でスマホ対策

親子でルールを決め、対話を重ね、上手に見守り、親子のコミュニケーションを大切に。

スマホ障害は治療法なく、予防あるのみです。

小学生のスマホ被害は年々深刻化しています。遅寝による学力体力の低下が目立ちます。大切な子供を守るためにスマホについての親の知識を高めて下さい。スマホ障害は医療の力が及ばない依存障害です。病院を受診されても薬物治療はなく、カウンセリング程度です。重度の依存は更生施設が望ましいのですが、日本ではまだありません。

 

キッズ携帯、子供向けスマホはおすすめ

キッズ携帯は大手携帯電話会社が販売する子供向けの携帯電話です。通話の相手先は登録済みの相手に限られアプリのインストールはできません。このタイプは小学生用の緊急時連絡に便利です。衛星利用測位システムGPS機能付きは子供の居場所を把握できます。子供向けスマホにはLINEは○時から○時までなどアプリごとに利用時間を制限する機能が付いています。

 

大人用スマホは危険

大人と同様のスマホを持たせる場合は、携帯電話会社が設定する有害サイトの閲覧制限であるフィルタリング機能を付けることができます。また、端末がアイフォンの場合は基本ソフトがiOS12であれば使用時間や機能を制限することができます。アンドロイド端末の場合はペアレンタルコントロール機能のあるGoogleファミリーリンクを使って使用制限できます。ただし最近は制限できないアプリが増えているし、子どもが親のパスワードを割り出して設定を変える可能性もあります。要するに、大人のスマホを持たせるのはリスクが高すぎます。

 

対応策

・小学校教育の間は・・スマホは多機能でどこへでも持ち運べる便利さのため依存性が強すぎます。要は、持たせないのが一番賢明な方法です。しかしスマホを持たせないと友達はゲームや動画を自由に楽しんでいるのにうちはなぜダメなの・・と子どもは不満を募らせます。平素から子どもとの対話を怠らないように注意し、早い時期から勉強に家庭用のパソコンや電子辞書を使う習慣を付けさせることが大切です。どうしても友達とLINEをしたい、でないとノケにされると訴える場合はその時間だけ親のスマホを使わせ、子どもにスマホを持たせないなど賢明な対応が求められます。

・親子でルール作り:親子でよく相談しルールを決めておくことが大切です。

時間 ⇒ 10時までの就寝を決める。スマホの使用は○時間以内。

場所 ⇒ 家族共通の空間キッチンや居間だけで使う。トイレや自室に持ち込まない。

有料のゲームやアプリは親の了解の下におこづかいの範囲内で使う。

会員制交流サイトSNSを使って知らない人とやり取りしない。

・中高校生対策:小学生までは親子の会話を重ね、子どもをスマホから守ることは可能です。ところが中高校生になると親子の対話は難しくなり子どものスマホ依存症は急増します。特にオンラインゲームは現実では得にくいチームワークを体験できたり、学校や家庭に比べ遥かに自由な魅力溢れる世界に遊べます。厚生労働省研究班の推計によると、オンラインゲームなどやりすぎるインターネット依存の疑われる中高校生は2017年度全国約93万人にのぼり、年10万人ペースで増加傾向にあると考えられています。一旦拡散すると消去できないSNS被害の増加、オンラインゲーム、LINE依存、インスタグラムDMなど電話番号不要な時代に入っており、睡眠不足、手足の細い虚弱生徒、学力・視力の低下、コミュニケーション障害などネット被害は年々増加しています。すでに親だけの対応では限界がきており社会全体の対応が求められています。

・社会に出て:スマホで育った子どもたちは社会に巣立ってから社内社外におけるコミュニケーションに戸惑うことが多いようです。目立つのは電話苦手現象です。電話に出たがらない、留守電を聞いてからかけ直す、メールで済ませたがる、ミーティングでの発言を嫌がるなど職場への適応に時間がかかり、転職を繰り返す場合もあります。昔と異なり海外への渡航を嫌がる、ツアーでないと国外に出れないなど、内向き思考の弊害が目立っています。国境のないグローバル社会が到来しているにも関わらず、孤立を深める日本の若者を憂う声が増えています。

 

寝る子は育つ

急速に発展、進化するネット社会から子どもを守るのは至難の時代となりました。だからと言って諦めるのではなくネット被害についての情報に関心を持ち、子どもと情報を共有することが大切です。自分たちが産んで育てた子ども、何事も親は知らなかったでは済みません。新たな問題として、最近は子どもより親のスマホ依存が増えており、子育て放棄、家庭崩壊、離婚の増加など子どもにとって過酷な時代と言われています。子どもは国の宝です。21世紀は社会全体、地域ぐるみで子育てをする時代と言われています。ヨーロッパではこの考え方が広がっています。日本の子育て支援も待ったなしの時代を迎えています。

要因となる疾患

睡眠相後退症候群

睡眠相の後退  発症のメカニズム

朝起きられなくて不登校になる子どもたちの原因として睡眠リズムの障害があります。代表的なのは、睡眠相後退症候群です。他に非24時間睡眠覚醒リズム障害、不規則型睡眠障害があります。本章では睡眠相後退症候群について説明します。

発症の原因は、夏休み遅くまで遊んだ、遅くまで試験勉強を頑張ったなど単純なきっかけが多いとの報告があります。体に起きている変化は体温リズム、ホルモンリズムが数時間(3~6時間)遅れていると報告されています。

人は脳の視床下部、視交叉上核に体内時計を持っています。太陽は一日24時間周期ですが、人の体は24.5~25時間周期のため毎日1時間太陽との間にずれを生じます。体内時計はこの1時間のずれを無意識自動的に調整してくれるありがたい時計(概日リズム調整時計)です。遅寝の子供たち、起立性調節障害ODの子供たちの体内時計(概日リズム調整時計)は1時間のずれの調整が上手にできなくなっています。毎日1時間の時間修正ができないため、他の子供より就寝時刻が1時間2時間と遅れる傾向にあります。このため簡単に遅寝習慣に陥ります。毎日午前1時2時に就寝するのは軽い睡眠相後退症候群、午前3時4時に就寝するのは典型的な睡眠相後退症候群です。この睡眠パターンに入り込むと早寝早起きしようと思ってもなかなか実行困難です。寝られないのでスマホをいじることになりさらに遅寝となる危険性を持っています。この遅寝症候群から脱却するには莫大なエネルギーが必要です。したがって、親子力合わせて予防に力を入れるべきです。

 

時計遺伝子を大切にしましょう

朝起きられない子供たちの治療は簡単ではありません。本人のやる気と家族の支援を必要とします。朝起きられない理由は、一日の昼と夜のリズムに歪みが生じていると考えられています。専門用語で言えば、概日リズムの周期や位相の形成に関与している複数のホルモンの異常が示唆されています。睡眠と覚醒リズムの基本は太陽に同期します。ところが、夜が更けても消灯しない日々が続くと概日リズムに関係の深い時計遺伝子にも変化を生じます。その結果、中枢時計の睡眠覚醒リズムと末梢時計の食事・運動リズムのバランスが崩れ体調不良となります。

中枢時計と末梢時計は同期して働く仲良しです。

概日リズムをよく表すのは睡眠日誌です

睡眠日誌は少なくとも2週間、生活日誌は1ヶ月程度記入します。

 

<睡眠日誌> 睡眠相後退症候群 軽度

<睡眠日誌> 睡眠相後退症候群

生活日誌をつけていただきます

消灯時刻とウォーキングの時間、この2つの課題の改善と治療効果の間には高い相関が見られます。

1ヵ月の集計点数が安定し、 100点超えを目指します。

【治療への模索… 】

軽症の場合は、毎日10分から15分ずつ消灯時間を早くし、起きる時間も早くしていきます。重症で朝4時~6時に就寝する子どもの場合、逆に思い切って睡眠相をずらし、毎日5~6時間ずつ遅く寝る方法を試します。いずれにしても治療は困難を極めます。定時制への進学、夜間就労などの対応策が考えられます。

 

光照射

概日リズム睡眠障害では、概日リズムの発信を行っている時計遺伝子は光に同調同期する特性を持っていますので、朝の早い時間帯に高照度光照射を行う光治療にも期待が寄せられています。

治療の基本は本人のやる気、家族の協力、そして光療法の組み合わせです。なお、1万ルクス前後の光照射装置については機種を紹介しますので各自で購入をお願いしています。

 

入眠前のおすすめはオレンジ色

私たちの目は虹の七色を識別します。波長の長いオレンジは脳にやさしいので、夜の入眠困難の子供たちには夜間オレンジ色の照明がお勧めです。

メラトニン

メラトニンは後退した睡眠相を前進させる効果があると言われています。朝の光照射療法と組み合わせると効果をみる場合があります。睡眠相後退症候群は、たとえ10時に布団に入っても、後退した睡眠時間まで3時間も4時間も寝つけないのが特徴です。メラトニンは脳の松果体という部位から分泌される睡眠ホルモン、二次性徴抑制ホルモンです。このためメラトニンは処方量に制限が設けられています。第二次性徴に影響しない1~2㎎を内服します。

 

時計遺伝子調整薬

ビタミンB12、炭酸リチウム(リーマス)、バルプロ酸(デパケン、セレニカなど)

リーマス、バルプロ酸はイノシトールモノフォスファターゼIMPaseやGSK-3βを標的因子として概日リズムの発信を行っている時計遺伝子の発現に関与し、睡眠覚醒のリズムを正常化する作用があると考えられていますが、詳細な薬理作用はわかっていません。今後研究が進み、これらの薬剤を使った治療の開発が期待されます。

起立性調節障害

 

起立性調節障害ODとは、簡単にいえば、健康であれば立ち上がるなどの動作時に調整される血圧のシステムが正常に働かず、低血圧を引き起こす症候群です。主な症状に「朝起きられない」「立ちくらみ、めまい」などがあります。性ホルモンが急増する二次性徴期に発症する特徴があります。原因や誘因として、スマホやゲームによる遅寝、頭痛、月経、多様化する人間関係、いじめやストレスなどとの関係が指摘されています。

<種 類>

起立直後性低血圧 INOH

体位性頻脈症候群 POTS

血管迷走性神経性失神 NMS

遷延性起立性低血圧 delayed-OD

脳血流低下型(起立性循環不全型)

高反応型

※日本では体位性頻脈症候群POTSが多い。

 

<頻 度>

起立性調節障害サポートグループHP od-support.comより

起立性調節障害サポートグループHP od-support.comより

<問 診>

問診によって単なる横着病なのか、学校環境やいじめなどの心理社会的要因の関与があるのかないのか、生活習慣を含め子供さんの状況を詳しく質問します。

【身体症状】

  1. 立ちくらみやめまい
  2. 起立時の気分不良や失神
  3. 入浴時や嫌なことで気分不良
  4. 動悸や息切れ
  5. 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
  6. 顔色が青白い
  7. 食欲不振
  8. 腹痛
  9. 倦怠感
  10. 頭痛
  11. 乗り物酔い

【 心理社会的症状 】

  1. 学校を休むと症状が軽減する
  2. 身体症状が再発、再燃を繰り返す。
  3. 気にかかっていることを言われると症状が増悪する。
  4. 一日のうちでも身体症状の程度が変化する。
  5. 身体的症状が2つ以上にわたる。
  6. 日によって身体症状が次から次へと変化する

以上のうち4項目が週1~2回以上見られる場合、心理社会的因子の関与ありと判定する。  

「日本小児心身医学会ガイドライン」より引用

 

<自律神経機能検査>

ODテストまたはシャロングテスト 午前・午後2回の検査が望ましいです。

検査は連続血圧計を使用します。

仰臥位 ⇒ 起立位 ⇒ 起立維持10分間の血圧、脈拍を連続的に測定します。

起立性調節障害の条件を満たせばODと診断できるかといえばそうとは限りません。

普通の学校生活を送っている健常な子供にもODテスト、シャロングテストでODの診断基準を満たす例はあります。

問診とODテストまたはシャロングテストから起立性調節障害疑い、または診断をします。

※ 結論的には起立性調節障害の確定診断率は100%未満です。

※ OD単独の場合はいいとして、ODと小児心身症の合併、ODと小児片頭痛の合併、ODと概日リズム睡眠障害の合併、さらには複数合併している例では病状は複雑で治療に難渋します。

<血液検査>

貧血、甲状腺機能、ミネラル(亜鉛、鉄、マグネシウム)、ビタミンB群

 

<脳MRI検査 全脊椎MRIミエログラフィー>

主に脳脊髄液漏出症の診断に使われています。

 

<非薬物療法>

  • 水分と塩分

起立性調節障害ODの軽症例は非薬物療法から開始します。水分を多く摂りましょう。子どもの体重が30kgの場合では1日1.5リットル、45kg以上では2リットルが必要です。塩分は少し多めに摂取します。日に9g~10gが目安です。

  • 運動

起立性調節障害ODはいきなり生活リズムを整えようとせずに、徐々に軽い運動と早寝早起きを心がけましょう。

運動療法では心拍数が120を越えない程度のごく軽い運動を毎日行います。午後の散歩程度のウォーキングを5分、10分、15分と徐々に増やします。起立性調節障害ODの子どもの多くは運動が嫌いです。横になりっぱなしになりがちなので座位に努めてください。起立時にはいきなり立ち上がらずに、30秒程かけてゆっくり起立します。歩き始める時にも頭位を前屈させれば、脳血流が低下しないので起立時の失神を予防できます。起立中には足踏みをしたり、両足をクロスに交叉すると血圧低下が防げます。早寝早起きなどの規則正しい生活リズムを心掛けるようにしますが、なかなか実行困難なので焦るのは禁物です。声掛けは大切です。

気温の高い場所は避けましょう。高温の場所では、末梢血管は動脈、静脈とも拡張し、また発汗によって脱水をおこし、血圧低下を来します。体育の授業を見学する時は、必ず保健室などの室内において、座って待機するようにします。夏休みが終わった2学期から学校に行けない子供が増える傾向があります。

  • 弾性ストッキング

下半身に血液が溜まらないように、下半身への血液貯留を防ぎ血圧低下を防止する装具があります。弾性ストッキングやODバンドのような加圧式腹部バンドは適切に利用すると効果があります。

認知行動療法

認知行動療法という治療法を聞いたことがありますか。理学療法など、身体的なリハビリテーションはよく知られていますが、こころのリハビリテーションについては、日本の医療は世界的に追いついていません。こころの問題は精神科や心療内科のみならず、世界的には慢性痛や慢性疾患、子どもの様々な病気など、診療科を問わず有益な方法として提供されており、認知行動療法Cognitive Behavioral Therapy: CBT、とくにマインドフルネスを基盤とした認知行動療法Mindfulness based CBTは、医学的に効果が認められています。日本では2018年に医療現場での活躍が期待される心理士として公認心理士制度が始まりましたが、診療報酬の適用範囲も限定的で試行錯誤の段階です。

 

認知行動療法は始まったばかり

英米では主に体位性頻脈症候群POTSに対して、薬物療法の前に認知行動療法が推奨されています。日本でも起立性調節障害ODの治療を長年専門にしている田中英高医師は、子どもの学業回復、社会性維持のために心理的な専門家と連携することの大切さ、保護者へのカウンセリングの重要性を指摘しています。

 

 体調と上手く付き合う5つの要素

https://www.potsuk.org/cognitive_behavioural_therapyより

 【参考資料】

POTS UK. Cognitive-Behavioural Therapy for Chronic Health Conditions.

https://www.potsuk.org/cognitive_behavioural_therapy

Co-Managing POTS Patients: Interdisciplinary Specialist and Primary Care Treatment

https://pediatrichealthnetwork.org/wp-content/uploads/2020/08/FOP-2017-Lotke-Langdon-Gray-Fletcher-FabianCo-Managing-POTS.pdf

不登校を伴う起立性調節障害に対する日本小児心身医学会ガイドライン集を用いた新しい診療.

田中英高. 心身医.53:212-222.2013

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/53/3/53_KJ00008580921/_pdf/-char/ja

Cognitive and psychological issues in postural tachycardia syndrome.

Vidya Raja. et al. Autonomic Neuroscience: Basic and Clinical. 215:46-55. 2018

https://www.autonomicneuroscience.com/article/S1566-0702(17)30282-5/pdf

 

<薬物療法>

ノルアドレナリン補充療法

ノルアドレナリン補充療法は、土日祭日は休薬します。

メトリジン(ミドドリン)、リズミック(アメジニウムメチル)、インデラル(プロプラノロール)、エホチール(エチレフリン)

 

※ メトリジンは交感神経α受容体刺激作用を持ち、動脈静脈の血管を収縮させ循環血漿量を増やす作用があります。このため血圧、頻脈に効果があり起立性調節障害の第一選択薬として推奨されています。メトリジンは口腔内崩壊錠がありますので寝床の中で飲ませることができます。私の経験ではメトリジンの立ち上がり効果は弱く2週間かかる印象、また2~3ヶ月を過ぎると慣れによる薬剤感受性低下をみることがあります。この場合は週単位の休薬を試みます。

※ リズミックはノルアドレナリンの活性を高め交感神経機能を亢進させます。効果を実感できる薬ですが動悸、立ち眩み、頭痛、めまいなどの奇異反応が5%未満ありますので注意が必要です。

※ インデラルは通常不整脈の治療に使われます。起立性調節障害ODでは体位性頻脈症候群だけに使います。10㎎錠なので朝食前に半錠~1錠内服します。ただ、気管支喘息を持つ子供さんには使用できません。

※ その他

ドプス、エホチールが有効な場合があります。

メチルフェニデートの有効な場合があります。

起立性調節障害における薬剤リスト

<参考資料>

子供の片頭痛

学童期片頭痛

子供の片頭痛は、親からもらった体質遺伝性、家族性が多い。

まじめ、几帳面、こだわるなどの頭痛性格も先祖からもらったものです。

本人の責任といえば、頭痛を誘発する遅寝、睡眠不足です。

遅寝は、本人の責任もありますが、家族全体の遅寝が原因の場合もあります。

小児片頭痛に合併する病気、または誤診される病気として起立性調節障害や脳脊髄液減少症があります。

 

大切です! 生活習慣の改善

子供の頭痛は、学業に支障を来すことが結構あります。

朝起きたときから頭痛があり、遅刻したり、休んだりします。学校では、窓際の明るい机を好まず、晴天の日の体育の時間を嫌がることもあります。頭痛だけでなく、光が過敏であったり、時には、フワフワめまいを訴えたりします。頭痛で困っている子供の多くは、10時以降に寝るなど、就寝時刻が遅い特徴があります。多くの子供は、9時に就寝するだけで、頭痛の軽減がみられます。また、天井の直接照明を切って、間接照明に変えるだけでも、頭痛は軽減します。このように、早寝や照明など、生活を改善することは、とても大切です。

 

睡眠についてお聞きします

子どもに必要な標準睡眠時間をご存知ですか?

標準睡眠時間:                  時間

あなたの子供さん:             時間

毎日                    時間の睡眠不足です。

 

照明についてお聞きします

子供部屋は、必要以上に、明るいですか       はい ・ いいえ

夜は天井照明を切っていますか           はい ・ いいえ

夜は間接照明・スタンド照明に変更していますか   はい ・ いいえ

 

親の協力をお尋ねします

午後8時・9時 になると、自分たちの部屋の天井照明を消していますか?

午後9時になると、テレビを消していますか?

午後9時になると、子供からゲーム・携帯・スマホを取り上げていますか?

夜の塾へ行かせていますか?

夜の塾を見直しましたか?

夜の子供サッカー・野球の練習などへの対応はどうされましたか?

子供の便通の有無を確認していますか?

 

光過敏の学童

片頭痛に合併する光過敏には ⇒偏光レンズ眼鏡

室内では普通眼鏡、または屋外はサングラス

 

小児片頭痛の薬物治療

歴史・・・子供の片頭痛にホットライトが当たったのは平成に入ってからです。バルプロ酸ナトリウムの有効性が認められ治療は随分と楽になりました。次いで、頓服薬としてトリプタン製剤が登場します。そして2021年4月抗体薬が登場しました。

治療・・・頓服治療の第一選択はイブプロフェンかアセトアミノフェンです。アセトアミノフェンは即効性ですが、有効率はイブプロフェンが勝ります。第二選択はトリプタン製剤です。なぜか小児には点鼻薬が効果的です。

小児片頭痛の予防治療薬として有効性が認められているのはバルプロ酸ナトリウム、トピラマート、プロプラノロールなどです。私はバルプロ酸ナトリウムであるデパケン、セレニカを第一選択薬として使用します。多くの例で効果が見られます。半年程度治療し内服中止しても頭痛抑制効果が継続する不思議性があります。

 

類似疾患

片頭痛によく似た症状を呈する病気として、睡眠時頭痛があります。昔は目覚まし頭痛と呼ばれていました。日中は頭痛がないのが特徴です。片頭痛予防薬のバルプロ酸が有効なことから、今は片頭痛と考えられています。

小児頭痛には起立性調節障害ODがあります。時に片頭痛や緊張型頭痛と誤診されることがあります。詳細な問診とODテストが必要です。厄介なことに、起立性調節障害ODと小児片頭痛の合併例は珍しくありません。

腹部片頭痛があります。腹痛を主訴とし顔面蒼白となり悪心嘔吐で受診します。対症療法で様子を見、多くは自然緩解します。成長して片頭痛を発症する場合もあります。その他稀に小児慢性疲労症候群などがあります。

 

関連症状

光過敏、音過敏、臭い過敏、気圧過敏があります。気圧過敏に合併した気分の落ち込みは見落とされやすい症状です。光過敏の症状が強い場合は、サングラス登校の許可を学校側に求めることがあります。小学生低学年の場合、光過敏を上手に訴えることができないため親も学校も気がつかない場合があります。早く気づいて対応策や治療が必要です。

片頭痛に関連する自律神経症状として悪心・嘔吐、鼻閉、鼻汁、目の充血などがあります。自律神経症状だけで頭痛のない場合もあります。

閃輝暗点は片頭痛の前駆症状として有名です。光のチカチカ、ギザギザ、歯車様ギザギザ、片頭痛に苦しんでいた芥川龍之介は自分の症状を歯車という小説にして発表しています。

睡眠時片頭痛、睡眠中に頭痛発作を起こします。睡眠中の頭痛により本人は寝ているつもりでも熟眠障害と残遺頭痛のため起床困難を起こすことがあります。

朝起きたら頭が痛いと訴える場合は睡眠時片頭痛を疑って下さい。

 

 

脳脊髄液減少症

脳脊髄液漏出症と低髄液圧症とがあります。両者は同じものではなく、別物とする意見、オーバーラップしているため分けるのは困難とする意見の両方があります。朝起きられない子どもたちの対象になるのは、低髄液圧症です。低髄液圧症は自律神経の不調から脳性髄液の産生が低下した状態と考えられています。一方、脳脊髄液漏出症は何らかの原因、例えば転倒、転落、衝突、尻もちなどの外力により、脊髄を包んでいる袋(硬膜)に傷が入り脳脊髄液が漏れて低髄液圧症となったものです。しかし原因不明のケースもかなりあります。

典型的な症状は寝ていれば頭痛はないが、起き上がると頭痛がします。診断は問診とMRI検査によります。まず低髄液圧症と診断し、次に脳脊髄漏出症を疑い検査を行います。脳脊髄漏出症が有名になりすぎて診断治療に混乱を来している現状があります。

治療はブラッドパッチ療法といって採血した自己血を脊髄を包んでいる袋(硬膜)の外に注入します。自分の血液を糊のように使って空いた穴をふさぐ治療です。

MRI検査 画像診断基準による

<その他>

睡眠時随伴症

子供の睡眠時随伴症は見落とされやすい病気です。症状は多彩で、寝相が悪いと簡単に片付けられる場合もあります。

寝相が悪いのは子供にとって普通に見られることですが、極端な場合は親は異常に気がつきます。手足をばたつかせる、腕を振り回す、足で蹴る、歯ぎしりする、度々ベッドから落ちる、大声を出す、奇声を発するなどの症状は睡眠時随伴症を疑います。

睡眠時随伴症には睡眠相のうちノンレム睡眠の時に起こす随伴症とレム睡眠の時に起こす随伴症の2種類あります。

ノンレム睡眠時随伴症は入眠期と覚醒期にに起きやすい症状です。好発年齢は5~12歳、夢遊病、寝ぼけ、夜驚症、夜尿症などがあります。多くは成長するにつれて自然治癒します。問題になるのはレム睡眠行動障害です。こちらは程度によって治療の対象となります。睡眠の専門医を受診ください。

 

過眠症

・ナルコレプシー

社会での認知度が低いため、横着病とか、怠け者のレッテルを貼られることがあります。れっきとした、睡眠の病気であることを解ってもらい、仕事内容の配慮など、使用者側の理解が大切です。診断は問診と検査によって行います。

ナルコレプシーは、突然発作的に襲ってくる耐え難い眠気が日に数回もあり、勉強や仕事に支障をきたします。外国に比べて日本人には多いようです。頻度は、1万人当たり14~16人程度と推測されます。福山市の人口40万人からすると約600人の方がナルコレプシーで困っておられるのではないでしょうか。

ナルコレプシーは脳内ホルモンオレキシンと関係します。笑ったり驚いたりすると体の力が抜ける情動脱力発作を持つタイプをナルコレプシーⅠ型、情動脱力発作を持たないタイプをナルコレプシーⅡ型と言います。入眠時金縛り、悪夢には治療薬があります。診断は問診と睡眠時ポリグラフ検査PSG、反復睡眠潜時検査MSLTです。

・ロングスリーパー 長眠者

実際には原因のわからない過眠症の方が多く、特発性過眠症と呼んでいます。よく聞いてみると親が過眠症であったり、祖父母世代に過眠症の人がいたりします。昔は長眠者と呼んでいました。今でいうロングスリーパーとほぼ同じものと考えられます。ナルコレプシーのようにきちんとした検査治療体系ができておりません。ナルコレプシーを除外して、試行錯誤の治療が試みられています。日に10時間、11時間、または11時間以上眠る子供は、必然的に学校に間に合うように起きられず遅刻します。社会の理解を得ることが必要です。

 

・イビキ無呼吸

子供にもイビキ無呼吸はあります。そのほとんどは残遺扁桃腺による口峡の狭窄です。子供は本能的にうつぶせになって寝ます。熟眠障害は起床困難につながります。注意欠陥多動性障害ADHDと間違われた子供もいます。残遺扁桃腺手術により平常に復します。

いじめ

いじめは子供にとって深刻な問題です。学校に行きたくないと思うだけで迷走神経が興奮し頻脈、血圧低下などを生じます。<心のストレス ⇔ 迷走神経反射>すなわち、心のストレスでも迷走神経反射を起こし、起立性調節障害ODを起こすことがあります。しかしながら、いじめは不登校の原因であっても朝起きられない原因ではありません。いじめの問題が解消すれば不登校も解消します。

お猿の社会でも人間と似たいじめがあるようです。これだけの文明を作り上げても、おサルさんとやっていることが同じなのは、少し残念です。いじめを疑った場合、迷わず学校との連携を大切にしてください。

 

・子どものうつ

一般外来で注意すべきは子供のうつです。日本は小児精神科医が少ないので、子供のうつが紛れ込んでくる可能性があります。感情の鈍麻、共同生活への興味の喪失を来たし、起床困難となり朝食も摂らなくなり、学校にも行かなくなります。このような場合、子供のうつを疑い精神科への紹介を模索します。年少の場合はなるべく早期に精神療法を行っている専門医に紹介する必要があります。14、15歳から自殺念慮、そして自殺が増えてきます。この年頃の死亡の第2位は自殺です。小児精神科医がさらに少ない地域では紹介先に難渋します。

・過眠症 ロングスリーパー

ナルコレプシーのような原因のある過眠症ではなく、全く原因のない過眠症として特発性過眠症があります。よくよく聞いてみると父親が過眠症であったり、おじいちゃんが過眠症であったりします。昔は長眠者と呼んでいました。今はロングスリーパーとも言われています。日に10時間、11時間、または11時間以上体質的に眠る子供は必然的に朝起きられず、学校に遅れます。正しい診断をしてあげ、社会の理解を得ることが必要です。

子供の生活指導

明るい照明が自律神経を乱す

 

脳を疲れさせる明るすぎる照明

・早寝のメリット

子供の成長・学力・体力に大切

睡眠中の大切な仕事は、①昼間の活動で疲れた脳とサビた体の修復作業、②昼間の学習内容を整理整頓し記憶にする作業の二つです。疲れを取り、サビ落としするホルモンは成長ホルモンとメラトニンホルモンです。この二つのホルモンは午後10時から急上昇し翌日の午前3時に急降下します。午後10時~午前3時をゴールデンタイム黄金睡眠と言います。遅寝の人の体はさびたまま翌日を迎えます。

脳は夜学習する

さび落としの時間帯午後10時~午前3時は学習の時間帯でもあります。

海馬および前頭葉は昼間に学習した知識をさび落とし時間の午後10時~午前3時の間に整理整頓し、記憶ボックスに収納します。収納された記憶があるから試験の時に答えを書くことができるのです。

夜の部活、夜の学習塾は脳の記憶整理のための時間帯を圧迫し、かえって学力の停滞から学力の低下を来すと考えられています。

消灯時刻と学業成績は相関します

・歩育の大切さ

子供が群れてにぎやかに遊んでいる姿を見る機会が最近めっきり減ったように感じます。本来子供は歩くこと、走ることが大好きです。昔の子供は裸足で走り回り、膝には転んだ傷が絶え間ない時代がありました。子供は4歳から外の世界に興味を持ち始めます。半径100mの世界から徐々に自分の世界を広げていきます。このなかで近所のおじいさんおばあさんと顔見知りになり、コミュニケーションを覚えていきます。春夏秋冬季節の変化を肌で感じ五感を育てていきます。

今の子供は学校から塾へ、塾から家へ、空いた時間はスマホやゲームに興じ、歩くこと走ることの時間が激減しています。その結果は虚弱な体と切れやすい性格の子供が増えています。カプセル型子育てと呼ぶそうです。

 

・思春期子育ての大切さ

思春期挫折症候群は1980年代に提唱されました。

幼少期の遊び不足、歩行不足、隣人との接触不足は脳の成長に影響します。

幼少期から小学校まで、自分の周囲の狭い世界に住んで良い子だった、そして何をしてもそこそこよくできた、そんな子供が思春期に入り一挙に広い世界に仲間入りすると、学校生活から友人関係まで思うようにいかず挫折していく場合がまれではありません。学業成績においても、部活においても、友人関係においても出遅れ感や劣等感に陥り、学校への適応障害、部活への適応障害からひいては不登校や引きこもりとなり、ときには行為障害さえも引き起こします。

 

・年齢による脳の発達 10歳でほぼ完成する 積極的な歩育の効果

人は10歳までエネルギーの大半を使って脳を育て熟成させます。

10歳までの眠育、歩育は特に大切です。10歳を超えると性ホルモンの急激な分泌増加により体と性器の発育するハイティーンの年齢になります。この思春期を謳歌するためにも眠育、歩育、食育に重点を置いた開放型の子育てをお願いします。

人間は生まれてから10年間はたくさんのメラトニン(脳の松果体から分泌される睡眠ホルモン)を分泌し思春期早発を防いでいます。なぜなら、全てのエネルギーを脳の成長に注ぎ込んでいるからです。脳の大部分の成長が終わると11歳から一挙に性ホルモンが放出され思春期が始まります。11歳から、早い子は10歳から、身体と性器の急激な成長が始まります。この成長期は心と身体のバランスを崩しやすくします。その結果、睡眠と覚醒のバランスや自律神経機能と身体のバランスの障害を起こしやすくすると考えられています。バランスの崩れた子供は親子共に多難の思春期となります。

対応の仕方は様々です。挫折の兆候が現れたら親子で青春とはの話し合いが大切です。

 

おわりに

朝起きられない子供たちの様々な要因と対策について述べてきました。子育ての基本は4育です。4育のトップは眠育です。次は歩育です。子供の成長にとって昼と夜のバランス、家の中と家の外のバランスは大切です。現代、成長期の子供の生活は家の外から中へ、朝型から夜型へと変わってきました。子育てのバランスは崩れ、4番目の教育の比重が高すぎる印象です。本来の子育ての基本である4育を守って、健康な子供さんを育て上げられることを願いながら、本稿を終わります。

 

子育て支援にお願いしたいこと

子育て支援は自治体の大切な責務です

朝起きられない子供たちへの救済運動について

行政に求めるのは朝起きられない子どもたちへの国家的支援です

時計遺伝子と睡眠は切り離せない関係にあります。睡眠を知るためには時間生物学を学んだ方が良いくらいです。人は37兆個の細胞からできていると推測されています。この細胞全てが時計遺伝子による時間時計を持っています。その細胞が集まった臓器もそれぞれの時間時計を持っています。人は体の中にある時間時計を尊重して生きなければ健康は保てないということです。体の中にある時間時計の代表は脳にあります。両目の視神経が頭蓋内に入って交差する近傍にある視交叉上核は、これを体外に取り出しても時間リズムを刻みます。私たちは臓器ごとの時計リズムの集合体として自律神経リズムを形作っていますが、この自律神経リズムは、太陽による24時間リズム、月による28日リズム、潮汐による12.4時間リズムなどと調和して朝と夜のリズムを刻んでいます。太陽によるリズムを概日リズムと呼びます。思春期の若者は、特有な概日リズムを持っています。それは睡眠相が小学生よりも大人よりも平均1-2時間遅れる睡眠相の後退です。中には2時間から3時間も遅れる場合があります。朝起きにくくなることはもちろん、学校に行っても集中力の低下、居眠りにより、学業に支障を来します。この思春期の若者に特有な睡眠相の後退について多くの研究があります。有名なオックスフォード大学のケリー博士ら(Dr. Paul Kelley)は学校の朝8時始業は10代の若者にとって拷問に等しい、若者の概日リズムからすると10時始業が妥当であると主張しています。しかし社会の同意を得ることは出来ませんでした。同じ考えをもつ米国メリーランド州のNPO団体Start School Laterは1990年代から公立学校の始業時間を遅らせることの妥当性を主張しています。実際にモデルケースとして7時20分の始業を1時間程度遅らせ8時30分にしたところ、授業中の居眠りが減りテストの点が良くなったと報告しています。この団体の主張するStart School Later運動は、朝起きられない子どもたちを持つ親の支持を受け、各地に始業時間の遅い学校を作っています。朝起きられない子どもたちは概日リズム時計遺伝子の障害なので、本人を責めても朝たたき起こしても効果は弱いのです。繰り返しますが、時計遺伝子に由来する睡眠相の後退症は、ある程度生活習慣等によって修正することはできますが、完全に学校に合わせることはなかなか難しいのです。概日リズム睡眠障害を持つ思春期の子供たちへの介入は、性ホルモンの急激に増加する13歳から15歳の時期に集中して行われるべきと言われています。日本も朝起きられない子どもたちに対しStart School Laterのモデル学校を試みるべきの声は多いです。午前中は学校でぼーっとして午後から元気になり、夕方から塾で勉強する子供たちの増加は、社会的資源の損失になっていると私は警鐘を鳴らしています。文部科学省に専門の研究班を作って取り組んでほしいと要望します。

 

一財)渋谷長寿健康財団研究員 医学博士

医療法人祥和会  明神館クリニック       大田浩右