イビキ 無呼吸

イビキ、無呼吸は循環器疾患と呼ばれるほど脳と心臓へすぐには目に見えない健康被害をもたらします。睡眠時1時間あたり10秒以上続く無呼吸や低呼吸の回数を無呼吸低呼吸指数AHIと呼び治療の目安に使っています。このAHI指数の定義はWHO、米国、日本とそれぞれ異なります。米国で18年間にわたり経過を調べた研究では軽症のSASを含め心血管系疾患(循環器病)による死亡リスクが5.2倍に高まることがわかってきました。

睡眠時無呼吸症候群SAS患者の健常者と比べた合併リスク

脳卒中 約4倍
不整脈 2~4倍 
高血圧症 約2倍
狭心症・心筋梗塞 2~3倍
慢性心不全 約2倍
糖尿病 2~3倍
交通事故 約3倍
胃食道逆流症・性欲低下 増加

出典:循環器病の治療に関するガイドライン2008~2009合同研究班報告 一部改変

日本における睡眠時無呼吸症候群SASの重症度分類

分類 AHI指数 厚生労働省による保険適用
軽症 5~15回 1泊しての睡眠ポリグラフ検査にてAHI:20回以上はCPAP療法保険適用
中等症 15~30回 在宅簡易睡眠ポリグラフ検査にてAHI:40回以上はCPAP療法保険適用
重症 30回以上 在宅簡易睡眠ポリグラフ検査にてAHI:40回未満で、日中眠気のある場合はOA(マウスピース)保険適用

詳しいことはかかりつけ医にご相談下さい。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療

OAマウスピース治療

マウスピース(スリープスプリント)は2004年4月から専門医療機関で「睡眠時無呼吸症候群SAS」と診断された場合、紹介状をもらって歯科医院で作ってもらいます。下記のAHI数値は簡易睡眠ポリグラフ検査によるものです。

 

鼻炎などで鼻閉傾向の強い人は開窓型マウスピースを作成します。この開窓型マウスピースにもⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型があります。この開窓型マウスピースは作成難度は高くどこの歯科医でも対応してもらえるとは限りません。

適応除外基準(禁忌)

  • 重篤な呼吸不全状態
  • 治療が困難でOAを維持するのに耐えられないような不良歯牙の存在(治療が可能な場合は、治療後に口腔内装置を適用する)
  • 治療が困難な歯周炎
  • 顎関節の障害
  • 鼻呼吸が不可能な程度の鼻閉(まず鼻閉の治療を行う)
  • マッケンジー3度の扁桃肥大(まず手術を行う)

CPAP(シーパップ)療法

日本の保険適応条件

(A)以下の項目全てを満たす症例であること

  • 無呼吸低呼吸指数が40以上(在宅簡易PSG検査)
  • 日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例 

(B)以下の項目全てを満たす症例であること

  • 無呼吸低呼吸指数が20以上(一泊入院精密PSG検査)
  • 日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例
  • 睡眠ポリグラフィー上、頻回の睡眠時無呼吸が原因で、睡眠の分断化、深い睡眠が著しく減少または欠如し、持続陽圧呼吸療法(CPAP)により睡眠ポリグラフィー上、睡眠の分断が消失、深睡眠が出現し、睡眠段階が正常化する症例

※この適応基準の妥当性については議論の分かれるところですが、規則上はCPAPの保険適応には、自覚症状があることがまず必要で、AHIが40以上の重症例以外は、CPAP前後で睡眠が改善することをポリソムノグラフィーで確認することが求められています。

米国2002年のCPAP療法に関する基準
  • 無呼吸30回/6時間以上
  • AHI 15以上が原則CPAP適応
  • AHI 5~14まででも強い日中傾眠・不眠症・虚血性心疾患などの合併症がある場合は認められる

CPAPと旅行

  • 1泊2日程度の旅行ならばCPAPを携行する必要はないように考えます。
  • 3泊以上の場合、CPAPの携行をお勧めします。

希望あるCPAP

  • 1日3時間を目標にしましょう。
  • 風邪などで喉が痛いときは休みましょう。
  • 鼻づまりの時も休みましょう。→よくなったら再開しましょう
  • 睡眠中に無意識にマスクを外していても気にする必要はありません。
  • マスクを外してそのままお休み下さい。
  • マウスピースとCPAPを併用する方法もあります。
  • 設定圧には個人差があります、検査技師に圧の調整を頼みましょう。
  • 正式な圧調整には、一晩泊まって検査をお奨めします。

CPAPはいつまでもつづけるものではありません。

当クリニックでは離脱を前提とした診療を心掛けています。

CPAPの効果が認められる離脱の目安を以下に示します。

CPAP離脱のために
  • 肥満の解消:肥満の方は、肥満の改善がとても大切です。
    ※CPAP療法では、肥満改善を同時並行的に指導します。
    肥満の程度は体重÷身長×身長=BMIの数値で本人にわかりやすく説明します。
    BMIの数値が30前後の人に睡眠時無呼吸が多発しています。
    BMIの数値が25前後に改善されると、睡眠時無呼吸も大きく改善されます。
  • 口呼吸⇒鼻呼吸による改善
  • マウスピース(OA)による改善
  • まくら・体位による改善 
  • アデノイド・扁桃腺などの手術による改善

睡眠時無呼吸症候群SASの問題点

CPAP療法適用以外の患者さんに対し注意すべき問題点があります。

● 検査ではつかめない中枢性無呼吸の存在です。特に在宅での簡易睡眠ポリグラフ検査で見落とされるリスクがあります。安易にこの検査をする睡眠時無呼吸を専門としない医師が増えており注意が必要です。専門とする医師は簡易睡眠ポリグラフ検査の機器選定に慎重です。呼吸波形を見ずにAHIの数値だけでの診断は危険です。

● 低呼吸は睡眠中の血中酸素飽和度をもって表します。低呼吸型SASもその程度によっては無呼吸型SASに劣らない危険性があります。重度の低呼吸型SASはCPAP保険適用のない程度のAHI指数でもCPAPが必要な場合があります。このような患者さんは保険では救済できません。日本のようにCPAPの機器が法外に高い国では安く個人購入する道を探す必要があります。実際に睡眠中の血中酸素飽和度の色々なパターンをお見せします。

● 在宅簡易ポリグラフ検査結果AHIの数値と臨床症状に解離がある場合は1泊しての精密睡眠ポリグラフ検査を受ける必要があります。この精密睡眠ポリグラフ検査は高額で簡易睡眠ポリグラフ検査の約10倍します。ここにも弱者への配慮はありません。