認知症について、わかりやすく教えて下さい。
今や、認知症は、癌と並び、2大疾患となりました。
癌も、認知症も、静かに忍び寄ってくるサイレントキラーです。癌は命を奪い、認知症は心を奪います。どちらも、早期発見、早期治療が大切です。
高齢化すると、物忘れが進み、脳も委縮すると考えられていましたが、調査の結果、単なる加齢による良性老年性物忘れBSFや、記憶障害AAMIは、脳萎縮も、脳血流の低下も、糖代謝の低下も、ほとんど認めないことが判ってきました。
問題は、認知前症と言われている軽度認知障害MCIは、放置すると認知症に進むことが判ってきました。このため、軽度認知障害MCIを発見する『もの忘れ脳ドック』に注目が集まるようになりました。
認知症には、どんなタイプがあるのですか。
アルツハイマー型は有名ですが、他にも、色々なタイプの認知症があります。
タイプと頻度は、円グラフにあるとおりです。
最近、隠れ認知症と言われる主観的記憶障害SCI、軽度認知障害MCIについて、わかりやすく教えて下さい。
SCIは、本人が、最近、物忘れが多いと気にする状態です。家族はもちろん、会社の同僚も気がつきません。SCIの多くは、放置されています。しかし、軽度認知障害MCIの健忘型の場合もあり、ドックを受ける価値は十分あります。
厚生労働省は、65歳以上になると、4人に1人は隠れ認知症MCIがいると警告しています。MCIは、軽度認知障害と呼ばれ、日常生活動作は正常なのですが、本人、家族共に、なんとなくおかしいと、記憶障害を訴えます。学会の認知症分類にないため、軽度認知障害MCIは、隠れ認知症と言われています。
認知症発症の数年前から始まっている、この軽度認知障害MCIを早期に発見し、適切な予防対策を取れば、発症を止めたり、遅らせたり、元に戻すことができるのです。
治療すれば、効果の期待できる認知症について、わかりやすく教えて下さい。
認知症には、初期、中期、末期の3段階があります。
初期認知症は、物忘れ、時間、日にち、計算、判断など、色々な障害を起こし、日常生活に何らかの支障を来すようになります。家族の支援は必要ですが、まだ物忘れの自覚はあり、記憶はまだらに保たれています。この段階で、生活指導、脳トレなどの強力な治療介入を行えば、まだ効果が期待できます。
基本情報の聞き取り
本人に、以下の簡単な質問をします。
① 日常生活に関する問診
・ 家族構成:独居・2人家族・複数人家族
・ 社会参加:なし・週 回・月 回
・ 趣 味:なし・あり ( )
・ 定期的ウォーキング:なし・あり
・ 料 理:しない・する
② 性格に関する問診
真面目・几帳面・潔癖・こだわる・完璧主義
③ 治療中の病気について
糖尿病・高血圧・高脂血症・脳卒中・自己免疫疾患
その他( )
④ Body Mass Index 体重(kg) ÷ 身長(m)2 =
・ 適正体重は、BMI:20~24です。
・ 許容体重は、BMI:18.5~25です。
・ 肥満は、BMI:25~30です。
・ 病的肥満は、BMI:30以上です。
ミニメンタルステート検査MMSEについて、教えて下さい。
MMSEは、1975年、米国のフォルスタインらが開発した、口頭による、見当識・記憶力・計算力・言語理解・図形把握など、1問10秒間で回答する、1問1点方式の11問30点満点です。どの位の点数から、認知機能低下を疑うのか、医師の経験により、多少異なります。健常人は、27点以上を取ります。
<疑い評価>
MMSE得点数 | 判 定 |
30~27点 | 正 常 |
26~24点 | 軽度認知障害MCI疑い |
23点以下 | 認知症疑い |
コメント:私の臨床経験から、健常者が20点以下を取ることは、まずありません。
20点以下の場合は、認知症の疑いが強いと考えるべきです。
同様に、長谷川式認知症スケールでも、健常者が20点以下を取ることは、極めて稀です。20点、または21点は大きな壁です。
<認知症評価>
MMSE得点数 | 判 定 |
27点以上 | 正常値 |
26~22点 | 軽度認知障害MCI |
21点以下 | 認知障害あり |
田平 武著「認知症診療テキスト」より
Q. 家族も参加した問診があると聞きました。
大友式認知症予測テストを用いた問診を行います。他にも国際評価を得た問診表がありますので、ミニメンタルステート検査MMSEの内容を見て、どの問診表を使うか判断します。
① 大友式認知症予測テスト
物忘れの始まり、あるいは認知症のごく初期の状態を、ご自身や家族などが、簡単に知ることができます。
0~8点 | 正常 |
物忘れも老化現象の範囲内。疲労やストレスによる場合もあります。 8点近かったら、気分の違う時に再チェックを。 |
9~13点 | 要注意 | 家族に再チェックしてもらったり、数ヶ月単位で間隔を置いて再チェックを。認知症予防策を生活に取り入れてみたらいかがでしょうか。 |
14~20点 | 要診断 | 認知症の初期症状が出ている可能性があります。家族にも再チェックしてもらい、結果が同じなら、もの忘れ・認知症外来へご相談下さい。 |
注:他の問診表として、日本では、まだ馴染みは薄いですが、ヨーロッパで一般的に使われているライズバーグの7段階スケールGDS。モーリスの簡易観察尺度 AD8 – J。 初期認知症徴候観察リストOLDなど。
Q 主にヨーロッパで使用されているライズバーグの7段階スケールGDSについて、教えて下さい。
このスケールの価値は、国際的に使われているミニメンタルステート検査と、統計的な相関が出ており、使いやすく便利です。
Q 睡眠と認知症の関係は?
ある種の睡眠は、認知症の危険因子なのです。イビキ無呼吸、寝相の悪さ、睡眠中の異常な言動などがある場合は、将来認知症になる可能性が高いと言われています。
睡眠問診 不適切な睡眠
Q 身体機能検査について教えて下さい。
ドック受診者が、意外と思われる検査があります。身体能力テストとして、歩行スピード、聴力、視力などがあります。歩かない人、筋肉の落ちた人、難聴、視力低下は、認知症発症の危険因子です。視力の矯正、集音器、補聴器の使用など、指導しています。
周波数:500~2000Hzの会話域聴力が中等度難聴以上は、認知症の危険因子
Q 血液検査は、何を調べているのですか
認知症の危険因子を調べます。自分の弱点を知っておくと有利です。
危険因子としては、HbA1c、インスリン抵抗性HOMA-R、ホモシステイン、白血球、炎症反応CRP、甲状腺機能TSH・T3・T4、ビタミンD、亜鉛など
HbA1c
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
5.5以下 | 5.6~6.4 | 6.5以上 |
インスリン抵抗性 HOMA-R
正常 | インスリン抵抗性の疑い | 明らかな抵抗性あり |
0.3~1.6未満 | 1.6~2.5未満 | 2.5以上 |
炎症反応CRP
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
0.30以下 | 0.31~0.99 | 1.00以上 |
甲状腺機能 TSH、FT3、FT4
基準範囲 | 要注意 | |
TSH | 0.4~4.2 | 2.0以上 |
FT3 | 2.5~5.0 | 2.5未満 |
FT4 | 0.8~1.7 | 0.8未満 |
総ホモシステイン
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
7.0未満 | 7.0~12.0未満 | 12.0以上 |
Q MRI検査について、脳のどこの変化を見ているのですか。
人は、目、耳、鼻から入った情報を、とりあえず海馬(一次記憶中枢)に記憶します。あらゆる情報は、海馬を取り巻く海馬傍回を通ります。この海馬傍回の萎縮の程度を、VSRAD法を用い、コンピュータで分析し、Zスコア値を出します。
Q Zスコアの値について、分りやすく教えて下さい。
この数値は目安であり、あくまで、参考数値です。
萎縮度 | Zスコア値 | 判定 |
正常 | 0~1 | 正常 |
Ⅰ度 | 1~2 | 軽度萎縮 |
Ⅱ度 | 2~3 | 中等度萎縮 |
Ⅲ度 | 3以上 | 高度萎縮 |
以下の検査は、選択できます。
Q 睡眠中のイビキ無呼吸は、認知症の危険因子と聞きました。検査について教えて下さい。
イビキ無呼吸検査は、在宅であなたが平素寝ているベッドで行います。検査器具の装着方法については、検査技師から説明があります。
検査は、1分間における低呼吸・無呼吸の回数AHIという数値で表します。睡眠中の低呼吸・無呼吸による低酸素は、認知機能に影響します。
正常 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
5未満 | 5~15未満 | 15~30未満 | 30以上 |
Q 遺伝子検査があると聞きました
メディアで騒がれているApoE4遺伝子があります。この遺伝子検査陽性の場合、将来、数倍高率に認知症を発症すると言われています。しかし、仮に陽性であっても、認知症を発症しない人が多数おられます。倫理上の問題からも、検査は希望者のみとなっています。
Q アルツハイマー病の画像検査でSPECT検査があると聞きました。分りやすく教えて下さい。
アルツハイマー型認知症初期の段階で、側頭葉と頭頂葉の血流低下がみられます。認知症の程度が進むと、前頭葉の血流も低下してきます。特に、若年性アルツハイマー型認知症では、側頭葉内側の萎縮変化は認められなくても、側頭・頭頂皮質で血流低下を来していることが多く、SPECT画像は診断に有用です。検査は希望者のみとなっています。
認知症予防治療の詳細は、認知症予防への挑戦(別冊)を参考にして下さい。